アストラの騎士アンリはそもそもアストラ騎士ではない。
幼いころに身を売られそうになり、逃げた先の黒教会に拾われたのである。そこで使用人であったホレイスと出会うことになる。
ホレイスは「人喰らいエルドリッチの子」として教会に半ば軟禁状態にあった・・・。
やがて成人へとアンリは育ち、ホレイスとはお互いを意識しあう間柄になっていく。いつしか教会を出て、二人で旅に出ることを決意する・・。
しかし、黒教会のユリアはこれを阻む。屈強な男へと成長したホレイスの肉体は麗しく、エルドリッチの力を宿した瞳は妖しくもあり美しかった。
頑なまでに父の遺志を受け継ぐユリアではあったが、心がホレイスに動くにはそれほど時間を要しなかった。
ユリアはホレイスにある提案を持ちかける。
二人での旅を許す。しかし父カアスの遺言通り、火の簒奪者が現れたときにはアンリを契りの対象としてほしいと・・。
それとアンリはエルドリッチの残された子の一人だということも・・。
ホレイスには生き別れた妹がいた。
まさかアンリがそれだとは思いたくもなかったのだ。あるいは噂に聞く薪の王ならば定めを変えてくれるのか・・。
ホレイスは王殺しの旅を決意する。道中、女の安全を杞憂し、奪ったアストラ騎士装備をアンリに与えた。
アンリとホレイスの旅は予想以上に苦しかった。王殺しはおろか、迫り狂う亡者でさえも追い払うのがやっと・・。
しかし、ホレイスとアンリは生まれて初めての自由を手にした。この辛くとも穏やかな旅がいつまでも続くと思っていたのだ・・。かの者が現れるまでは・・。
異様な力で不死街を抜けた者の噂はすぐに広まった。ユリアは古くからの友人ヨエルを偵察に差し向けたのだ。
ヨエルによれば、間違いなく「火の簒奪者」となる素質を見たという。だが、ヨエルは知っていた・・アンリとホレイスとのことを。
ヨエルはホレイスに報せ、かの者を殺せと命じる。ユリアの手が届きにくいカーサスの地下墓がよいだろうということも。
しかし、魔女ユリアの目は心眼を射抜く。
ヨエルとて・・父の遺志の前では「ただの裏切り者」に過ぎなかっただけである。
ホレイスは決めた。
かの者を殺せば全てうまくいくと・・妹をとられることはない。だが、アンリの気持ちもまた揺れ動き始めているのを知っていた。
ホレイスは決めた。
負ければアンリを喜んで譲ろうと。
ユリアの闇朧は「かの者」を切り刻んだ。ここで殺せば父の遺志が砕けることを承知で・・。
しかし、どうであろう・・。ホレイスへの想いがよぎった刹那・・地に膝をついた自分を知覚した。
目が虚ろである。遠ざかる火の簒奪者が朧げでよく見えないのだ。
ヨ、ヨエル・・目をくれないか・・? 私は役目を果たしたか・・?